2025年2月4日 ET News
韓国で次世代ディスプレイ技術である「無機発光ディスプレイ」の確保に向けた研究開発(R&D)プロジェクトが本格的に始動した。昨年、予備妥当性調査を通過したこのプロジェクトの最初の課題が発表された。
2月4日、韓国産業技術企画評価院(KIAT)および韓国ディスプレイ産業協会(KDIA)によると、「無機発光ディスプレイ技術開発およびエコシステム構築事業」に関する17件のR&D課題が公募された。
このプロジェクトの総予算は180億ウォン(約18億円)であり、以下の主要テーマに取り組む。
・製造コストを1/25に削減するための大面積チップ製造技術と超高速転写接合技術
・スマートウォッチや拡張現実(XR)デバイス向けの製品化技術開発
・無機発光ディスプレイのインフラ構築およびプロジェクト全体の運営を担う推進団の編成
この取り組みにより、韓国は無機発光ディスプレイ技術の確立と産業基盤の強化を目指すとしている。
無機発光ディスプレイとは?—韓国政府が本格投資へ
無機発光ディスプレイとは、マイクロ・ナノ発光ダイオード(LED)や量子ドット(QD)などの無機素材を発光源とするディスプレイ技術を指す。
無機素材を使用することで寿命が長く、輝度や消費電力の面で多くの利点があるため、有機発光ダイオード(OLED)に次ぐ次世代ディスプレイ技術として注目されている。
市場調査会社Omdiaによると、無機発光ディスプレイ市場は2026年に100億ドル(約1兆4,000億円)規模に達し、2035年には3,200億ドル(約47兆円)へと成長する見込みだ。
中国・台湾が市場を先行…韓国も本格参入へ
次世代ディスプレイ技術としての注目が高まる中、中国や台湾は市場の主導権獲得に向けて積極的に投資している。特に中国は、既存のLED技術の強みを活かしながら、マイクロLED分野に集中投資し、急速に市場競争力を高めている。
こうした状況を受け、韓国政府も無機発光ディスプレイ技術の確保に向けて本格的に動き出した。 2025年から8年間で4,840億ウォン(約484億円)を投じ、コア技術の開発を進める計画で、すでに実行段階に入った。
政府の最終目標は、中国や台湾が韓国より先行している市場での競争力を高め、不足している産業インフラを補完することだ。
現在、韓国内のマイクロLED関連産業は素材・部品・装置(ソブジャン)企業や、ピクセル製造能力などの基盤が不十分な状況であり、今回の政府投資が転換点となるかに注目が集まっている。
中国・台湾はすでに11億ドル以上を投資
一方で、中国と台湾はすでに11億ドル(約1兆5,000億円)以上を投入し、ピクセル製造からパネル量産までの自立供給網を構築している。さらに、セットメーカー(完成品メーカー)やチップ・パッケージング企業を巻き込んだ強固な協力体制を確立している。
また、韓国政府が先月16日に発表した税制改正案との相乗効果も期待されている。この改正案では、
・「マイクロLEDのエピタキシャル成長、転写、接合素材・部品・装置技術」を国家戦略技術に追加指定
・R&D税額控除の適用を、中小企業・中堅企業まで拡大
・研究開発および事業化施設への投資に対する税額控除の支援
が盛り込まれており、韓国内のディスプレイ産業の競争力強化が期待される。
業界も政府の支援強化を歓迎
ディスプレイ業界も、政府のR&D事業公募や税制改正において、無機発光ディスプレイ技術が重点的に指定されたことを歓迎している。
韓国ディスプレイ産業協会のイ・ドンウク副会長は、「ディスプレイ産業は技術集約型産業であり、特に初期の開発投資や特許出願を基盤とした量産競争力が、グローバル市場での主導権を決定する。」と述べ、産学官の初期集中支援の重要性を強調した。政府と業界の支援を受け、韓国が無機発光ディスプレイ市場で競争力を確保できるか、今後の展開に注目が集まっている。