サムスンディスプレイ、IT向け第8世代基板OLEDの蒸着装置の優先順位が変わる


○2022.12.19 The Elec

 

サムスンディスプレイがIT向け第8世代OLEDへの投資優先順位を変える。サムスンディスプレイは1年以上開発してきたフルカット・垂直蒸着方式の第8世代OLED投資を延期し、アップル向けにハーフカット・水平蒸着方式の第8世代OLED投資の時期を早めようとすると予想される。フルカット・垂直蒸着は技術完成度と不確実なパネル需要などが障害となった。

 

19日、業界によると、サムスンディスプレイはアルバク(Ulvac)と1年以上開発してきたフルカット(Full Cut)・垂直蒸着方式IT向けの第8世代基板有機EL(OLED)投資を延期する可能性が高まった。サムスンディスプレイはノートパソコン・タブレットなどIT製品用OLED市場拡大を控え、IT用第8世代OLEDプロジェクトをアルバクとのフルカット・垂直蒸着、そしてキヤノントキとのハーフカット・水平蒸着などツートラック(Two Track)方式で推進して来たが、このうちフルカット・垂直蒸着方式の投資時点が不透明になった。

 

業界では予想される装置発注と搬入時期によって便宜上、フルカット・垂直蒸着装置を導入するラインを第1段階、キヤノントッキーのハーフカット・水平蒸着機を適用するラインを第2段階と呼んだ。アルバクのフルカット・垂直蒸着機は、赤(R)緑(G)青(B)のOLED発光層を1層に積み重ねる「シングルスタック」(Single Stack) OLED製品を作り、サムスン電子やASUS(エイスース)などに納品すると予想されてきた。 。キヤノントッキのハーフカット・水平蒸着機では、RGB OLED発光層を2層に積み重ねる「ツスタックタンデム」(Two Stack Tandem) OLED製品を作り、アップルに納品する計画だった。両プロジェクトは別々に推進され、技術開発と顧客会社の需要などによっていわゆる第2段階ラインが第1段階ラインに先立って投資される可能性があった。 

 

サムスンディスプレイが第8世代フルカット・垂直蒸着方式投資を延期する原因は、技術完成度と需要不確実性などが複合的に作用した結果と推定される。

 

サムスンディスプレイがアルバクと開発してきたフルカット・垂直蒸着方式技術は完成度が高くなかったことが分かった。サムスンディスプレイがIT用第8世代OLEDガラス原版サイズを8.5世代から8.7世代に変えたのも、アルバクに負担として作用したと推定される。8.7世代(2290x2620mm)の原版は、先に開発した8.5世代(2200x2500mm)よりも横方向90mm、縦方向120mm長くなるにもかかわらず、装置製作では差が大きいことが分かった。

 

需要面でも第8世代フルカット・垂直蒸着投資を急ぐ理由がない。今年下半期から消費者心理萎縮でサムスンディスプレイのノートパソコンOLED出荷量の成長傾向が鈍化した。市場調査会社オムディアは今年、サムスンディスプレイのノートパソコンOLED出荷量が前年比18%増えた594万台を記録すると予想したが、これは当初サムスンディスプレイ目標には及ばない水準である。昨年、サムスンディスプレイのノートパソコン向けOLEDの最大の顧客会社だったASUS(エイスース)は、OLEDノートパソコンの在庫がかなりの水準である。

 

サムスンディスプレイが開発してきたフルカット・垂直蒸着第8世代OLED技術を、既存の5.5世代A2リジッドOLEDラインで量産中のIT用OLEDと比較すると、ガラス原版拡大に伴う経済性改善と解像度以外には大きな差がない。第8世代フルカット・垂直蒸着方式も既存のA2ラインと同じシングルスタックOLED製品を量産する予定である。

 

また、サムスンディスプレイがA2ラインで作るスマートフォン用リジッドOLED出荷量も今後減る可能性が大きい。ライン稼働率が低いBOEやCSOTなど中国パネルメーカーが第6世代フレキシブルOLED価格を下げているためだ。市場調査会社UBIリサーチは、世界中のスマートフォン用リジッドOLED出荷量が2022年に1億9200万台から2027年に9600万台に年平均(CAGR)12.9%減少すると予想した。サムスンディスプレイのスマートフォン向けのリジッドOLED出荷量は同期間年平均(CAGR)20.8%下落し、2027年の数量が5000万台水準にとどまると見込まれた。

 

需要だけを見ても、A2ラインで量産中のラップトップOLED需要成長傾向が予想を下回り、スマートフォンリジッドOLED需要が減少すると見込まれる状況で、サムスンディスプレイがフルカット・垂直蒸着投資に乗り出すのは難しい。

 

一方、サムスンディスプレイは「アップルビジネス」であるハーフカット・水平蒸着方式IT用第8世代OLED投資は前進しようとしている。キヤノントッキーの装置を利用するハーフカット・水平蒸着投資はアップル向けである。サムスンディスプレイは、キヤノントッキーにIT用第8世代OLED蒸着装置の開発のためのスロット(Slot)確保で、自社を最優先順位に置くよう要請中だという。スロットは、購買意向書(LOI)と正式発注(PO)に先行する口頭要請をいう。

 

スロット確保を基準にしたパネルメーカー別のキヤノントッキーの第8世代ハーフカット・水平蒸着機の搬入時点は、LGディスプレイが2024年第1四半期で最も早く、サムスンディスプレイは2024年第3四半期、BOEはその次であるようだ。LGディスプレイは財務状況が良くないが、IT用第8世代OLED蒸着装置を確保してアップルビジネスに対応しようという方針を立てたと伝えられた。

 

一方、サムスンディスプレイがアルバックと開発してきたフルカット・垂直蒸着は、薄膜トランジスタ(TFT)工程後の基板を半分に切らず(フルカット)、基板を垂直にして蒸着(垂直蒸着)する方式である。従来の中小型OLEDはTFT工程後基板を半分に切り(ハーフカット)、基板を床と平行に浮かせて有機物を蒸着(水平蒸着)した。理論的には、TFT工程後に基板を半分に切断しない場合は切断面付近の損失を減らして生産効率(面取り率)を高めることができる。

 

これに先立ち、サムスンディスプレイは早ければ年内IT用第8世代OLED第1段階ラインに必要な装置をガラス原版投入基準月1万5000(15K)枚規模で発注すると予想されてきた。同様に、月15K規模の第2ライン投資は、第1ラインと1年余りの間隔をおいて進行すると推定されていた。