米国シンクタンク「中国ディスプレイ産業の成長に対する米政府の政策対応」提案


2024.09.27 The Elec

 

米国のシンクタンクが、米国政府に対し中国のディスプレイ産業を抑制するよう提案する報告書を発表しました。この報告書は、米下院の共産党特別委員会委員長が国防長官に中国BOEと天馬(ティエンマ)を国防省のブラックリストに指定するよう書簡を送る1週間前に発表されました。

 

米国のシンクタンクITIF(Information Technology & Innovation Foundation)は、9月16日(現地時間)に「中国はディスプレイ産業でどれほど革新的か?」という報告書を発表し、中国ディスプレイ産業の成長に対する米政府の政策対応を提案しました。

 

ITIFは、中国のディスプレイ産業が政府の補助金支援、特許侵害、大規模な生産ラインの構築により急成長していると評価しています。今年、中国の液晶ディスプレイ(LCD)市場シェアは72%に達し、有機EL(OLED)市場シェアも50%を超えています。

 

さらに、ディスプレイ技術の進展が半導体産業に波及する可能性も指摘されています。ITIFは「ディスプレイと半導体の製造工程は70%以上が類似しており、中国のディスプレイ技術が半導体産業に拡大する可能性がある」と述べました。これにより、米国政府が中国の半導体産業の成長を阻止しようとしている現状を踏まえ、中国のディスプレイ産業を抑制する必要性が強調されています。

 

ITIFは、米国にはもはや消費者向け電子製品用のLCDやOLEDの生産ラインはないものの、次世代ディスプレイ技術であるマイクロディスプレイの製造機関を設立することを議会が検討できると提案しました。マイクロディスプレイは軍事用途に使用される可能性があります。

 

また、ITIFは「サムスンディスプレイがBOEに対し、テキサス東部連邦裁判所で特許侵害訴訟を、国際貿易委員会(ITC)で営業秘密侵害に関する紛争を行っている」と説明し、「適切な場合、米国機関はサムスンを支援する法廷意見書(アミカスブリーフ)を提出することができる」と述べました。さらに、米国政府機関が同盟国と協力し、中国の産業スパイ活動に関する情報を共有し、これを阻止するべきだとも提案しています。

 

注目すべき点は、ITIFの報告書が発表された8日後の9月24日、米下院のジョン・ムーリナー中国共産党特別委員会委員長がロイド・オースティン国防長官に対して「中国BOEとティエンマを国防省のブラックリスト(1260Hリスト)に指定してほしい」と書簡を送ったことです。ムーリナー委員長は「BOEとティエンマが中国人民解放軍と密接に関係しており、両社はファーウェイのように米国の国家安全保障に脅威を与えている」と主張しました。

 

国防省のブラックリストに含まれた場合でも、これらの企業の製品が米国に輸出されることは妨げられませんが、新たな契約の締結や投資誘致が困難になります。

 

ムーリナー委員長は「中国がマイクロディスプレイ分野で支配力を確保し始めている」と懸念を示し、世界のマイクロディスプレイ技術への資本支出の90%が中国企業と中国政府によって行われていると指摘しました。このような傾向が続くと、特に拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を使用する先進軍事技術において、米国の発展が敵国に左右され、脆弱になると警告しました。

 

ムーリナー委員長が言及したマイクロディスプレイ分野には、OLEDOSも含まれます。昨年、サムスンディスプレイは米国のOLEDOS企業イマジンを買収しました。当時、一部では「サムスンディスプレイはイマジンの買収を通じて、ディスプレイが戦略的資産であることを米政府にアピールする機会が増えるだろう」との見方がありました。イマジンは米国防省にOLEDOSを供給しています。

 

一方、ITIFは、2021年初頭に発表されたペンシルバニア大学の世界シンクタンクランキング報告書(Global Go To Think Tank Index Report)で、「2017~2019年の科学技術政策センター」(Top Science and Technology Policy Center of Excellence for 2017–2019)部門で1位、2020年の「米国シンクタンク」部門で39位に選ばれました。

 

 

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米国下院のジョン・ムーリナー中国共産党特別委員会委員長の書簡
9.24.24 DOD Letter re BOE Tianma.pdf
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