新しいボリューメトリック・ディスプレイが、仮想空間に浮かぶコンテンツとの「手を差し入れての直接的な操作」を可能に


2025年4月9日 Display Daily

 

2025年4月9日、ジョセフ・ブライアンズによる報告によれば、スペインのナバーラ公立大学(Universidad Pública de Navarra)の研究者たちは、まるでSFのような革新的な技術「FlexiVol」を開発しました。これは、実際に素手で中に手を差し入れて触れることができる3Dディスプレイです。このシステムでは、ヘッドセットや手袋、コントローラーといった特別な装置を一切使うことなく、空中に浮かぶ仮想コンテンツと直接インタラクションが可能になります。

 

FlexiVolは、デジタル環境との関わり方に新たな可能性をもたらすものであり、より直感的で自然な体験を実現します。仮想空間に手を差し入れてコンテンツに触れるという体験は、従来のスクリーン越しの操作や間接的な入力方法とは一線を画すものであり、今後のインターフェース技術の進化を象徴する存在と言えるでしょう。

 

ユーザーの入力(手の動き)は出力(表示された仮想オブジェクト)と正確に一致しており、それによってユーザーは仮想オブジェクトを直接つかむことができるほか、移動させたり回転させたりすることも可能です。(出典:Elodie Bouzbib)
ユーザーの入力(手の動き)は出力(表示された仮想オブジェクト)と正確に一致しており、それによってユーザーは仮想オブジェクトを直接つかむことができるほか、移動させたり回転させたりすることも可能です。(出典:Elodie Bouzbib)

 

FlexiVolは、「スウェプト・ボリュメトリック・ディスプレイ(swept volumetric display)」の原理に基づいて開発されたもので、これは動く拡散体に2次元のスライス画像を投影することで、残像効果を利用して3次元の映像を形成する仕組みです。従来のシステムでは、物理的な接触を防ぐために剛性のある拡散体が使用されていましたが、FlexiVolではこの部品を弾力性のあるストリップに置き換えることで、ユーザーが手をディスプレイ内部に差し入れ、投影されたオブジェクトと直接やり取りできるようになっています。

 

このシステムは、プロジェクターと振動する拡散ストリップを組み合わせて3D映像を作り出します。プロジェクターは高フレームレートでスライス画像を出力し、それを拡散体の動きと同期させて表示します。柔軟な拡散体により、ユーザーはディスプレイを傷つけたり、自分がケガをしたりすることなく、直接的な物理的インタラクションが可能になります。

 

研究チームは、拡散体として使用する素材を複数試験しました。試されたのは、エラスタン、シリコン、投影用ファブリックなどで、それぞれの光学性能、剛性、周波数応答、変形性などを評価しました。その結果、ポリエステルとエラスタンを組み合わせた伸縮バンドが、すべての評価項目において最も優れていると判断され、採用されました。

 

また、拡散体の動きによって生じる視覚的な歪みを解消するために、補正アルゴリズムも開発されました。このアルゴリズムは、振動の任意のタイミングにおける拡散体の形状を予測し、それに合わせて投影画像を調整するというものです。多項式関数を用いてメッシュの頂点を補正することで、3Dコンテンツの形状を保ちます。

 

FlexiVolでは、拡散ストリップの隙間に手を差し込んで、3Dコンテンツを操作することができます。インタラクションは、ユーザーの手がストリップに触れたり、間を通過したりすることで発生します。つかむ、つまむ、押す、回す、スライドさせるといったジェスチャーに対応しており、それぞれ、選択、拡大・縮小、移動、なぞり操作などの機能に結びついています。

 

このシステムは抽象的なメタファーや間接的な操作方法を用いず、手の位置と仮想オブジェクトが正確に一致するため、実際の身体の動きに基づいた自然な操作が可能です。

 

18人の参加者を対象とした調査では、FlexiVolと3Dマウスを比較し、「選択」「なぞり」「ドッキング」の3つのタスクを実施しました。完了時間、位置精度、認知負荷を測定した結果、FlexiVolの「通して操作できる」インターフェースは、より短時間で作業を完了でき、認知的負荷も低減されることが分かりました。精度は3Dマウスよりやや劣るものの、多くの参加者はFlexiVolの方を好み、「説明なしでも直感的に使える」といった意見が聞かれました。

 

さらに、参加者たちは手をディスプレイに差し込む動作についても「安全で心地よい」と感じたと答えており、振動する拡散体から何らかの感触を感じたという声もありました。また、「両手で操作できたらよい」「もっと複雑な動きにも対応してほしい」といった、ジェスチャー操作の拡張に対する期待も寄せられました。

 

 

FlexiVolは、モデリング、可視化、教育、ゲーム、医療トレーニングなどの分野での活用が期待されています。参加者たちは、手術の計画、共同デザイン、デジタルコンテンツの操作といった具体的な用途を提案しました。また、このディスプレイシステムは、従来の硬質部品を用いたシステムに比べて動作音が小さいという特徴もあります。

 

参考文献

Bouzbib, E., Sarasate, I., Fernandez, U., Fernandez, I., López-Amo, M., Ezcurdia, I., & Marzo, A. (2025年4月). FlexiVol: A Volumetric Display with an Elastic Diffuser to Enable Reach-Through Interaction. 人間・コンピュータ相互作用に関するCHI会議論文集(CHI’25)より。https://doi.org/10.1145/3706598.3714315