サムスン電子の「RGBマイクロLED TV」はLCD製品…ネーミング効果を狙う


2025年2月6日 The Elec

 

サムスン電子が1月のCESで発表した「RGBマイクロLED TV」は、LCDパネルとカラーフィルターを採用した従来のLCD TVの構造を持つ製品である。

 

サムスン電子の「RGBマイクロLED TV」はLCD製品…RGB LEDバックライトを採用し色再現性向上

サムスン電子が1月のCESで発表した「RGBマイクロLED TV」は、液晶ディスプレイ(LCD)パネルと赤(R)・緑(G)・青(B)のカラーフィルターを採用した従来のLCD TVの構造を持つ製品であることが、6日に明らかになった。この製品は外部光源を必要とする「非自発光」のディスプレイだが、従来のミニLED-LCD TVで使用される白色LEDのバックライトとは異なり、RGB発光ダイオード(LED)をバックライトとして採用している点が特徴である。RGB LEDをバックライトに使用することで、白色LEDと比べて色再現性とコントラスト比を向上させることができる。

 

サムスン電子は1月のCESで「世界初のRGBマイクロLED TVを発表する」と発表した。従来のLED-LCD TVでは、青色LEDに蛍光体をコーティングして白色光を作り出し、それをバックライトとして使用していた。しかし、「RGBマイクロLED TV」はメインパネルの背後に微細なマイクロサイズのRGB LEDを配置することで、フルカラーのローカルディミングや消費電力の削減(20%低減)、スリムデザインを実現すると説明されている。ラインナップは75インチ、85インチ、98インチ(8K)の3種類が用意されている。

 

この製品はバックライトを必要とするLCD方式であり、従来の白色LEDバックライトをRGB LEDに変更することで、色再現性とコントラスト比を向上させている。(出典:CES)
この製品はバックライトを必要とするLCD方式であり、従来の白色LEDバックライトをRGB LEDに変更することで、色再現性とコントラスト比を向上させている。(出典:CES)

 

サムスン電子がすでに量産しているミニLED-LCD TV「Neo QLED TV」と、CESで発表された「RGBマイクロLED TV」の最大の違いは、バックライトが白色LEDからRGB LEDに変更された点である。白色LEDは、青色LEDに蛍光体を組み合わせて白色光を作り出すため、さまざまな波長が混ざり、カラーフィルターを通す際に色純度が低下する。一方、RGB LEDは各色の純粋な波長を維持するため、カラーフィルターを通しても色純度が比較的高い。

 

また、バックライトのLEDチップが小型化されることで、光源を部分的にオン・オフできるローカルディミングゾーンが増加し、コントラスト比が向上する。サムスン電子が「RGBマイクロLED TV」のバックライトチップは「マイクロサイズ(MICRO-sized)」と発表していることから、LEDチップのサイズは100マイクロメートル(μm)以下であると推測される。

 

サムスン電子が1月のCESで発表した「RGBマイクロLED TV」は、LCDパネルとカラーフィルターを採用した従来のLCD TVの構造を持つ製品である。バックライトにRGB LEDを使用することで、色再現性とコントラスト比を向上させることができる。(資料:CES)
サムスン電子が1月のCESで発表した「RGBマイクロLED TV」は、LCDパネルとカラーフィルターを採用した従来のLCD TVの構造を持つ製品である。バックライトにRGB LEDを使用することで、色再現性とコントラスト比を向上させることができる。(資料:CES)

 

サムスン電子の「RGBマイクロLED TV」はLCD製品…色再現性とコントラスト比向上

業界では一般的に100μm以下のLEDをマイクロLEDと分類しているが、厳密な基準があるわけではない。サムスン電子が2020年に発売した146インチの自発光マイクロLED製品に使用されたLEDチップのサイズは125×225μmだった。当時、「このモデルのチップサイズは100μmを超えているため、マイクロLED製品とは呼べない」という指摘に対し、サムスン電子は「自発光製品だ」と反論していた。つまり、単にチップのサイズではなく、LEDチップが光と色の両方を直接生成する「自発光」特性こそが、マイクロLEDの本質であると強調したのだった。

 

その後、サムスン電子は自発光マイクロLED製品のチップサイズをさらに小型化してきた。

 

・2020年発売の146インチモデル:125×225μm

・2021年発売の110インチモデル:75×125μm

・最近発売されたモデル:34×85μm

 

「RGBマイクロLED TV」は「Neo QLED TV」のハイエンド版

結局、今年のCESで公開された「RGBマイクロLED TV」は、ミニLED-LCD TV「Neo QLED TV」のハイエンドバージョンと見ることができる。なぜなら、バックライトの白色LEDをマイクロサイズのRGB LEDに置き換えただけであり、LCDパネルとカラーフィルターを使用する点は従来のミニLED-LCD TVと変わらないためである。

 

ハイセンスもCESでRGB LED採用のミニLED-LCD TVを発表

また、中国のハイセンスも今年のCESで、バックライトにRGB LEDを採用した116インチのミニLED-LCD TV(TriChroma LED TV)を展示した。この製品もLCDパネルとカラーフィルターを使用している。ハイセンスはこの製品について、「大型TVの新しい基準を作り、ミニLEDの新時代を切り開いた」と評価している。

 

今年のCESではハイセンスもバックライトにRGB LEDを採用した116インチのミニLED-LCD TVを展示した。この製品もRGB LEDをバックライトとして使用し、LCDパネルとカラーフィルターを採用している。(資料:ハイセンス)
今年のCESではハイセンスもバックライトにRGB LEDを採用した116インチのミニLED-LCD TVを展示した。この製品もRGB LEDをバックライトとして使用し、LCDパネルとカラーフィルターを採用している。(資料:ハイセンス)

 

サムスン電子「RGBマイクロLED TV」、市場での名称混乱の可能性も

サムスン電子の「RGBマイクロLED TV」は、100インチ以下のTV市場をターゲットにしたコストパフォーマンス重視の製品として企画されている。CESで紹介されたラインナップは75インチ、85インチ、98インチ(8K)の3種類で、最近の中国メーカーによる大型LCD TVの積極的な出荷に対抗する意図があるとみられる。現在、サムスン電子は「RGBマイクロLED TV」の発売を検討中だ。

 

名称の混乱が業界で懸念される理由

しかし、サムスン電子がこの製品を「RGBマイクロLED TV」として発売すれば、市場や業界でマーケティングや用語の混乱を引き起こす可能性があるとの指摘もある。というのも、これまでサムスン電子は「マイクロLED」という名称を「自発光ディスプレイ技術」として強調してきたため、市場や業界では「マイクロLED=自発光ディスプレイ」という認識が強いからだ。既存の自発光「マイクロLED」ラインナップとの差別化も注目されている。

 

実際、サムスン電子のネーミング戦略が市場に混乱を招いた例は過去にもある。

 

・2009年:LCD TVのバックライトをCCFL(冷陰極蛍光ランプ)からLEDに変更した際、「LED TV」と命名。LCDパネルの使用は従来と同じだった。

・2017年:LCDパネルに量子ドット(QD)シートを適用して色再現性を向上させた「QLED TV」を発売。しかし、業界や学術界では「QLED」という用語は自発光ディスプレイ技術である「量子ドットLED(Quantum-dot Light Emitting Diode)」として認識されていた。

 

「QLED TV」は自発光ディスプレイではなく、外部光源(LEDバックライト)が必要だったため、業界内で用語の混乱を招いた。しかし、当時の市場では別の見方もあり、「LED TV」は新しいマーケティングの切り口となり、「QLED TV」はLG電子の自発光有機EL(OLED)TVに対抗し、むしろ優れた製品であるという印象を消費者に与えるネーミングだったとの評価もある。

 

サムスン電子のOLED戦略の変遷

サムスン電子は2013年に初めてOLED TVを発売したが、収益性の問題から撤退。その後、2022年に再びOLED TV市場に参入した。この時の製品にはサムスンディスプレイの「QD-OLED」が採用された。

 

また、2023年からはLGディスプレイ製のホワイト(W)-OLEDパネルの調達も開始し、年間の購入量は以下のように推移している。

 

・2023年:10万台未満

・2024年:50万〜70万台

・2025年(目標):80万台