2025年3月28日 The Elec
2025年3月のスマートフォン向けフレキシブル有機EL(OLED)の価格は前月に比べて下落し、フレキシブルOLEDとリジッドOLEDの価格差も縮小しました。この動向は、リジッドOLEDの生産比率が高いパネルメーカーにとっては負担となる可能性があります。
市場調査会社シグマインテルの調査によると、3月の6.67インチ、2400×1080解像度のスマートフォン向けフレキシブルOLEDの価格は20.5ドルで、2月の21.0ドルから0.5ドル下落しました。一方、3月の同仕様のリジッドOLEDの価格は16.8ドルで、2月と同水準でした。
フレキシブルOLEDとリジッドOLEDの価格差は、2月の4.2ドルから3月には3.7ドルに縮まりました。ポリイミド(PI)基板を使用するフレキシブルOLEDは、ガラス基板を用いたリジッドOLEDに比べて製造工程が多いため、コストが高くなります。しかし、フレキシブルOLEDはリジッドOLEDよりもパネルの厚みやベゼル(縁)を薄くできるため、設計の自由度が高いという利点があります。
シグマインテルは、3月のフレキシブルOLED価格の下落について、「スマートフォンメーカーとパネルメーカーの双方がフレキシブルOLEDの普及率拡大に注力しているものの、中価格帯スマートフォンの製造コストの負担が増大したため、一部のフレキシブルOLED価格が下がった」と分析しています。また、「中国政府の『以旧換新(イグファンシン、古い製品と引き換えに新しい製品を購入する際の補助政策)』政策の恩恵で中価格帯スマートフォン市場が活性化し、スマートフォンメーカーのフレキシブルOLEDの在庫積み増し需要が強い」との説明も付け加えています。
中国のスマートフォンメーカーは中低価格モデル市場を狙い、フレキシブルOLEDの在庫確保を計画していますが、製造コストの負担が大きいため、パネルメーカーに価格引き下げを要求し、パネルメーカー側もこれを受け入れたとみられます。フレキシブルOLEDとリジッドOLEDの価格は以前より下がっているものの、同サイズの液晶ディスプレイ(LCD)と比べると依然として高価です。3月の6.72インチ、2400×1080解像度の低温多結晶シリコン(LTPS)LCDの価格は9.8ドルで、同仕様の6.67インチフレキシブルOLEDの20.5ドルの半分以下にとどまっています。
フレキシブルOLEDの価格下落はリジッドOLEDの需要減少につながる可能性があり、フレキシブルOLED事業の収益性にも悪影響を及ぼしている。
2023年上半期には、中国のパネルメーカーがフレキシブルOLEDを製造コスト以下で供給したことで、一時的にリジッドOLEDの需要が急減した。しかし、2024年に入ってからはフレキシブルOLEDの価格が再び上昇し、リジッドOLEDの需要も回復している。これは、消費者が新製品に慣れると、以前のモデルの性能不足を感じる「逆体感」現象が起きたためであり、この影響でスマートフォン市場全体でOLEDの普及率も増加した。「逆体感」とは、消費者が最新モデルを使用した後、旧モデルの性能に物足りなさを感じる現象を指す。
フレキシブルOLEDは、サムスンディスプレイやLGディスプレイだけでなく、BOEやCSOTなどの中国パネルメーカーも複数社が量産している。
一方、リジッドOLEDはサムスンディスプレイやビジョノックス(Visionox)が量産している。OLEDも顧客や仕様によってハイエンドとローエンドに分類されるが、シグマインテルが今回公開したOLED価格は、中低価格帯のスマートフォンに適用されるローエンドOLEDを対象に集計したものと見られる。
あるディスプレイ業界関係者は、「最近は薄型スマートフォンの需要が高まったことで、中国のスマートフォン市場でもOLEDの需要が増加している」と述べている。
バックライトユニット(BLU)が必要な液晶ディスプレイ(LCD)よりもリジッドOLEDは薄く、さらにリジッドOLEDよりフレキシブルOLEDの方が薄型化できるからだ。
中国のパネルメーカーによるスマートフォン向けOLEDの出荷量も増加傾向にある。
別の市場調査会社であるUBIリサーチによると、BOE、CSOT、天馬(Tianma)、ビジョノックス、エバー・ディスプレイ(EDO)などの中国メーカーのスマートフォンOLED出荷量の合計は、2021年の1億1400万台から2024年には3億9400万台へと大幅に増加している。
昨年、世界全体のOLED発光材料使用量は過去最高の130トンに達し、2023年より30%増加した。
OLED発光材料のメーカー別使用量シェアでは、サムスンディスプレイが42%でトップ、2位はLGディスプレイ(20%)、3位はBOE(13%)となっている。