リソグラフィー技術を使った非FMM方式OLED技術の動向


サムスンディスプレイとAMATの新技術導入の背景

サムスンディスプレイは、米国の半導体製造装置企業Applied Materials(以下、AMAT)から「非FMM方式(ファインメタルマスクを使用しない)」の垂直蒸着装置を導入し、新たなOLED製造技術の量産性を評価する計画を進めています。この技術は従来のFMM方式を使用せず、特定のプロセスを通じてRGB(赤、緑、青)のOLEDサブピクセルをパターニングするものです。この装置は同社のA2ライン(第5.5世代基板対応)に設置され、量産性や市場適応性をテストする役割を果たします。

 

非FMM方式OLED技術の概要とメリット

非FMM方式のOLED技術は、従来のFMM方式に代わる新たなアプローチとして注目されています。これにより、次のような利点が得られるとされています:

 

解像度の向上:FMM方式では製造が困難だった高解像度ディスプレイの量産が可能に。

開口率の向上:光透過率が改善され、エネルギー効率の向上が見込まれる。

素材設計の柔軟性:RGBの各色の素材を個別に設計できるため、性能や品質の向上に寄与。

 

この技術の一例として、JDI(ジャパンディスプレイ)のeLEAP技術やVisionox(ビジョノックス)のViP方式が挙げられます。これらはいずれも露光プロセスを活用し、FMMを使用せずにOLEDを製造するものであり、量産が成功すればOLED市場に大きな影響を与える可能性があります。

 

AMATの「MAX OLEDソリューション」

AMATは「MAX OLEDソリューション」として新しいマスクレスOLED製造技術を発表しました。この技術は従来の方法と比較して以下のような性能向上が期待されています:

 

輝度:最大3倍向上。

消費電力:最大30%削減。

寿命:最大5倍延長。

画素密度:最大2.5倍増加(2000PPI達成可能)。

また、この技術は第6世代から第8世代基板まで対応可能で、大型ガラス基板を使用した製造を効率化することができます。

 

サムスンディスプレイの目的と方向性

サムスンディスプレイはこの技術を20~30インチクラスの中型OLEDや、左右に長い車載用OLEDといった既存のFMM方式では量産が難しい分野に適用する可能性を模索しています。特に非FMM方式の量産性が確認されれば、ニッチ市場向けの製品を効率的に供給する新たな機会が生まれると期待されています。

 

ただし、非FMM方式の製造プロセスは現段階でコスト面での課題が残るため、まずは少量多品種生産向けの市場でその可能性を評価する見込みです。

 

技術開発における課題と競争

非FMM方式技術の量産化には多くの課題が伴います。例えば、JDIのeLEAP技術やVisionoxのViP技術は歩留まりがまだ低いとされています。材料やプロセスの複雑さがこの状況の背景にあります。

 

競争相手としては、SEL(半導体エネルギー研究所)が類似技術を開発しており、独自の方法でFMM方式の技術開発を進めています。

 

市場への影響と将来の見通し

非FMM方式OLEDが量産化されれば、次のような市場への影響が予想されます:

 

中小型OLED市場の変化:現在、FMM方式が支配的な中小型OLED市場において、新技術が適応されれば、性能とコストの両面で競争が激化する可能性がある。

新市場の開拓:車載用や中型ディスプレイ市場など、従来の技術では実現が難しかった分野での製品化が進む。

製造コストの抑制:一方で、露光プロセスを拡大するとコストが上昇するため、特定の用途に限定された適用が主流になる可能性もある。

 

ビジョノックスの取り組みと課題

中国のVisionoxは、非FMM方式の「ViP」技術を強調し、IT向け8世代OLEDラインの一部に採用する方針を掲げています。しかし、ViP方式の歩留まりは依然として低く、量産技術として確立されるには時間がかかると見られています。

 

総括

非FMM方式OLEDは、現在のFMM方式に代わる新たな製造技術として注目されており、サムスンディスプレイや他社がその可能性を模索しています。特に解像度や効率の向上、コスト削減のポテンシャルが評価されており、2025年以降の市場投入が期待されています。ただし、製造コストや歩留まりの課題を克服するには、さらなる研究開発と投資が必要です。