【若林秀樹】国内外の技術動向から読み解く、今後のOLED


最新動向は日進月歩

【若林秀樹】国内外の技術動向から読み解く、今後のOLED

2016/5/12
多くのPickが集まったプロピッカー若林秀樹氏によるOLEDディスプレイの解説記事。本日はOLEDに関して技術的なトピックを多く盛り込んだ後編を公開する。
【前編】次世代iPhoneにも搭載、OLEDディスプレイ最前線
東大工、工修、野村総研、みずほ、JPモルガンで電機アナリスト。日経ランキング1位5回、理科大MOT非常勤講師3期、ヘッジファンド10年9.4%/y、ソルチノレシオ2.1、シャープレシオ0.94(05-14年)、特にリーマンショック前後の2年連続で10%以上のリターンでアジアンヘッジでベストファンド賞に輝く。現在は30年の実証分析に基ずく「経営重心」理論を構築、NoSideのシンクタンクである㈱サークルクロスコーポレーションを創業し活動。

東大工、工修、野村総研、みずほ、JPモルガンで電機アナリスト。日経ランキング1位5回、理科大MOT非常勤講師3期、ヘッジファンド10年9.4%/y、ソルチノレシオ2.1、シャープレシオ0.94(05-14年)、特にリーマンショック前後の2年連続で10%以上のリターンでアジアンヘッジでベストファンド賞に輝く。現在は30年の実証分析に基ずく「経営重心」理論を構築、NoSideのシンクタンクである㈱サークルクロスコーポレーションを創業し活動。

先行するキヤノントッキ

トップメーカーが指定との見方もあり、先行するキヤノントッキの蒸着装置。これをアルバック、アプライド等が追っている。トッキでは、1台が100億円以上、年間キャパが3台といわれる。既に2017年まで売り切れ状態。特に、サムスンが2017年3台、2016年1台と独占状態らしい。

2016年は、サムスンが1台。もう1台はLGがキャンセルしBOEへ。そして、最後の1台は、鴻海シャープ、JDIが確保という説まである。ただし、これが2016年の話か2017年の話か、G4.5ハーフかG6ハーフなのか不明な点も多い。

業界全体のサプライチェーンを心配するアップル等が、ベンダーのために、アロケーション(配分)している可能性もあろう。また、キャパも4-5台に増加との見方もある。装置というより、G4.5でも全長100mクラス、G6ハーフでは、150m級、幅20m、高さ8mのプラントであり、かなりカスタム性も強く、「蒸着マスク」との関係・相性もあるため簡単に各社に行き渡るわけでないだろう。

下図に亀山工場との比較を示す。左がk1(亀山第一)、右がk2(亀山第二)、その横が蒸着ラインだが、その巨大さがわかるだろう。K1では、現在の装置を全部外に出しても、2ライン入るかどうか、である。
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RGB蒸着機の概要を示す。G6ハーフでは、連結される封止の真空プロセスも入れれば全長150m、幅20m、高さ8mといい、まさにプラントである。チャンバーも数十、システムは成膜第一クラスタ、成膜第二クラスタ、封止クラスタ、封止ガラス自動供給ラインからなる。

キヤノントッキHPより

キヤノントッキHPより

キヤノントッキHPより

キヤノントッキHPより

さらに、鍵となるのが、封止クラスタ、封止ガラス自動供給ラインである。いろいろバリエーションがあり、パネルメーカーで独自に調達する場合もあり、フレキの場合は、当然変わってくる。

トッキの特徴は、パラレルショット、ポイントソースでの蒸着であり、有機材料が、付着しないように、常に高温にチャンバーを維持している。TACTも全100m以上にしては、数分以内と早く、また144時間連続運転が可能なようだ。難易度が高い上、特許も強いようだ。

キヤノントッキHPより

キヤノントッキHPより

OLEDは水分厳禁

OLEDは水分厳禁であり、RGB蒸着機の後で速やかに封止しなければならない。これまで、ガラス向けの封止は既に実績はあるが、フレキOLEDでは、薄膜封止が重要となる。表示部分については、有機と無機で複層化したハイブリッド膜で防ぐ技術が進み、3層のものも出てきているようだ。

しかし、横方向、端面からの封止は難しい。高温はあるが、常温では、例が少なく、いろいろな技術が提案されているところである(SID2014DIGEST LGの招待論文等)。

今回、この技術を提案したのが、LANテクニカルサービスである。

LANテクニカルサービスHPより

LANテクニカルサービスHPより

LANテクニカルサービスHPより

LANテクニカルサービスHPより

デバイスガラス側(下側)に、PIフィルムの上にPDL(Pixel Devided layer)なる土手を設け、それにSiN膜を被せて水分侵入を防ぐ。そのSiN膜の上に接合層としてSi膜を成膜、バリヤフィルム側(上側)には接合層であるSiを成膜しておき、真空下で接合する。その後、ガラス基板をレーザー照射で剥離する。なお、内面封止は、CVDインクジェット等、どういう技術でも対応できるようだ。動画サイトもある。

水蒸気透過率は、2×10^-2 g/㎡/日、であり、基準の10^-6 g/㎡/日よりかなり高い、実際は端面の面積をかけると、表示面から入る分子の数よりはるかに少なく、また温度85度、湿度85度の条件で2000時間の保持がテストされている。ただ、気体である水素や酸素のテストは、まだのようだ。

マスクはDNPが先行、追う凸版

マスクでは、サムスン向けに400ppiを達成したDNPが先行、これを凸版が追っている。現状は、インバーをケミカルエッチングで20μmの穴をあけ、DNPが生産した短冊状の箔を、韓国側で、支持フレーム鉄板に溶接しているようだ。

DNPはFMM(フラットメタルマスク)、シャープ鴻海もFHM(フラットハイブリッドマスク)も開発が進んでいるようだ。これを電鋳技術のアテネ、PI(ポリイミド)を使いFHMを提案するVテクの方式の内製メーカー、知財に優位な日立マクセル等が急速にキャッチアップしている形だ。
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FMMは、20μmのインバー箔の短冊を鉄フレームに溶接したものだが(下図 参照)、薄い箔ゆえに裂け易く、張力を加えてピンと貼る必要があり、また、高温の蒸着機の環境で使用するため膨張の問題もある。

また、穴はケミカルエッチングで作成するが、この寸法バラつきがOLEDの色むらの原因ともなる上、ゴミが詰まりやすくクリーニングが大変であり「筋が悪い」技術ではある。実績はあるものの、これ以上の高精細化は容易ではない。穴径の寸法精度バラつきが色あいにも影響する。

FHMは、ガラスの上にPIを形成(Vテクの装置を使用)、そこに穴を明けた5μm程度のインバーかニッケルの箔を貼り(メッキを使うという説もある)、あとでガラスを除去するというもののようだ。こちらは、FMMと違って、張力を加えて貼る必要はなく、膨張も問題が少ないが、寿命に問題はあり、連続使用時間が短いという問題点もある。

いずれも、穴形状は円筒状であり、蒸着源の位置次第では影ができたりする上、500ppi以上を狙えば、限界もあり、アテネ社が京都市産業技研と開発した電鋳が期待される。先行はサムスンだが筋の悪い技術ゆえ、十分に逆転もありうるだろう。
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アテネは電鋳に強み

アテネは、もともとレコード向けに、電鋳技術を育成してきたが、京都市産業技研と低膨張インバー向けで5μm電鋳技術を確立、700-800ppiの高精細化に道を開いた。テンションマスクではあるが、ビッカース硬度は550であり、実際に触っても、ペラペラではなく弱くない。また、穴径と板厚の関係よりは、ギャップが重要であり、理論上は、穴径は2μmまで可能なようだ。

なお、現状は、厚さ10μで穴径25μm。金型により、R形状など色々な穴の形状が可能で、蒸着源からシャドーを無くすことが容易である。

なお、同社のビジネスでは、箔の状態ではなく、フレームに貼った状態で納入するようであり、仕様などで異なるが数百万円とみられる。G4.5ハーフは対応できるが、G6ハーフ用は、メッキや検査装置などの設備投資が必要である。

アテネHPより

アテネHPより

アテネHPより

アテネHPより

Vテクは、PI使ってFHMでキャッチアップ

Vテクは、PIフィルムをインバー貼り付けのFHMで738ppiを達成した。G4.5ハーフをR&D用で実績。ノンインテンションマスクである利点や、膨張に強く、高精細化も可能で、マスクにゆがみもない。薄型化が可能で、シャドーができない。寿命にやや難があるが、低コスト化で対処だろうか。

作成法は支持ガラスにPI塗布、リソでパターン化し、インバー電鋳、その後に、ガラスをレーザーで除去。もともとは、FMMでDNPと共同開発していたが、それがコラボできなくなったため、独自にPIを取り入れた方式を開発したようだ。

VテクHPより

VテクHPより

なお、Vテクの事業としては、マスク自体を売るわけではなく、内製メーカー向けにマスク製造装置や、レーザー加工装置、検査装置やリペア、アモをLTPS化できるバックプレーン用レーザーアニール装置を売り込む。試作ラインでも、これらを合計すると数十億円の事業規模になるようだ。

レーザーアニールでは日本製鋼

なお、レーザーアニールでは日本製鋼がある。G4.5~G8まで対応。G6で繁忙だが、一台20億円弱と高価だが売れ行きは強そう。ただ、巨大な装置であり、キャパは月産1-2台程度と限られているようだ。

日本製鋼HPより

日本製鋼HPより

韓国勢が強い関連メーカー

なお、OLED化で、LTPS/LTPOで必要な装置メーカーを示す。実際は、かなり流動的である。材料や装置でも、韓国勢が強そうである。
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OLEDのキャパを試算

中国をはじめ韓国、台湾、日本で、OLEDとLTPS/LTPOの投資が相次いでいるが、スマホ市場が鈍化する中で大丈夫だろうか、というのは、業界関係者や投資家、アナリストに共通の懸念である。報道や各社の発表、SEAJなど業界団体の予測では2016年のFPDの設備投資は20%増、露光機等は40%増もありえそうだ。また、中国企業では、計画は物凄いが、頻繁に変更される上、どこまで信憑性があるか不明な点もある。さらに、装置によっては供給できないものもあり供給能力を計算するのは難しい。

そこで、ボトルネックになっている装置の動向からキャパを計算する。

OLED化の前に、まず、バックプレーンでLTPS/LTPO化投資が必要であるが、これは既に、LCDでも高精細化で必要であり、ここ数年、設備投資が盛んである。また、パネル取れ数から、G6が中心であり、既にある1000k/月のキャパが、LTPS化されている。

ここで必要な装置は、イオン注入装置やレーザーアニール装置だが、中でも、G6向けイオン注入装置は日新電機が独占している。同社の月産3台程度のキャパは拡大しつつあり、年40台程度には増えるようだが、ここがボトルネックとなっている。

OLEDでは、このバックプレーンをLTPS/LTPO化したうえで、フロントをOLED化するわけだが、ここでのボトルネックは、蒸着機である。アップルも認めたというRGB400ppiを出せるのは、キヤノントッキの機械で、DNPのメタルフラットマスクを使うことが必要である。しかし、キヤノントッキの蒸着機は6G向けが一台100億円するといわれる上、年間のキャパが3-4台しかない。

シャープのOLED投資計画

ここでの装置や設備投資の金額は、シャープの第三者割当増資の発表資料や、これまでのFPD各社のキャパと装置の導入状況などから計算した。
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このOLEDの2000億円や、LCD(IGZOが中心)の600億円は今後大きく変わる可能性もあろう。堺工場では、もともと144k投入予定だが、72kであり、半分が空いているので、丁度いいだろう。また、バックプレーンは、IGZO、LTPO、LTPSのどれもあり、亀山だけでなく、傘下のイノラックスから持ってくる場合もあるだろう。

シャープによれば、実験ラインは280億円であり、クリーンルームに80億円の他、200億円が蒸着機等に投資される。内訳は独自推定だが、今後、開発要素も大きく、不明な点が多い。

有機蒸着製造装置は最も高価で、200億円の半分以上、100~150億円程度を占めよう。

マスク製造装置やPI基板製造装置は、マスク内製のためであり、Vテクなどの装置だろう。カプセル化装置は、封止のためのラインと思われる。いろいろな物質を使うため、洗浄なども大変そうだ。

ここで、重要で高価なのがレーザー関連であり、一台10-20億円だが、マスク穴あけ、レーザーアニールや、封止時のガラス基板剥離のためのレーザー照射など、用途が多岐にわたる。

パイロットラインは480億円、量産ラインは1240億円であるが、これらは、フロントだけである。量産ラインは、パイロットラインを3本とあり、合計がLTPS化されているK1のG6ラインのキャパ25-30kと同じなるように計算した。

実際には、K2やイノラックス、あるいは堺のアモラインをIGZO化する可能性もあろう。なお、シャープでは歩留まりを75%としているが当初はもっと低いだろう。

OLEDの未来

2017年には、各社のG6ラインの導入計画が600k/月まで到達する。これは、スマホ換算で20億台に相当し、現状でのスマホ市場15億台を超える。ある程度、他の応用を考慮してもほぼ供給過剰となる。RGB蒸着では、キヤノントッキが年4台の他、他社も一定程度、追随すれば、2017-2018年にはサムスンやLG等、報道されているキャパの130k/月まで到達。スマホ台数で10億台弱となり、大半がOLED化されることになる。

両者を併せれば(LTPS/LTPO化されたパネルとOLED化されたパネルの合計)、スマホ30億台に相当する。しかし、現在のケータイも、高精細化されたパネルを搭載しており、タブレットやノートPC、更にはクルマ向け異形曲面などの応用が2020年に立ち上がれば、まだ不足となろう。実際は、装置搬入や装置の開発にも時間がかかる上、かなり歩留まりでも苦労し、1-2年は遅れるだろう。
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なお、最新動向は日進月歩であり、現場は大きく変わってくる可能性もある。特にスマホを巡る状況は、アップル次第で一変する。本稿は、非常に限定された情報の中で試算、類推している点も多いことに注意されたい。

 

(写真:iStock.com/mikkelwilliam)