サムスンディスプレイが、OrthogonalからFMMを使用しないOLEDの特許を購入


2024年6月14日 The Elec

 

サムスンディスプレイがアメリカのオーサゴナル(Orthogonal, https://orthogonalinc.com/)から、ファインメタルマスク(FMM)を使用せずに赤(R)、緑(G)、青(B)の有機EL(OLED)を製造するために必要な特許を購入した。これは、ディスプレイ業界で「eLEAP」(JDI、ジャパンディスプレイの技術名)と総称される、非FMM方式のRGB OLED技術に属する特許だ。

 

非FMM方式のRGB OLEDはまだ商用化されていないが、将来的に中型OLED市場でニッチ市場を作る可能性があると評価されている技術だ。非FMM方式のRGB OLED技術を開発中の企業も多数存在する。サムスンディスプレイがオーサゴナルから関連特許を購入したのは、将来この技術が商用化される際に発生する可能性のある特許紛争のリスクを減らす意図があると見られる。

 

業界によれば、サムスンディスプレイは10日にオーサゴナルからアメリカの特許5件を購入した。特許5件のうち4件の発明の名称は「有機電子装置のフォトリソグラフィパターニング」(Photolithographic Patterning of Organic Electronic Devices)で、残りの1件の発明の名称は「開口率の高いカラーディスプレイ」(Color OLED Display with a Larger Aperture Ratio)だ。これらのアメリカ特許5件の韓国ファミリ特許の権利者はまだ変更されていない。

 

サムスンディスプレイが今回オーサゴナルから購入した特許は、非FMM方式のRGB OLED技術に関するものだ。この技術は、RGBサブピクセルを形成する際にFMMの代わりに露光装置を使用する。露光工程を通じてR、G、Bそれぞれの発光層と共通層を形成するため、従来のFMM方式より高解像度のディスプレイを実現でき、開口率も高めることができる。また、R、G、Bそれぞれの材料セットの構成も異なる可能性がある。

 

現在、スマートフォンやタブレットに適用されている中小型RGB OLEDは、共通層を蒸着する際にはオープンメタルマスク(OMM)、RGBサブピクセルを蒸着する際にはFMMを使用している。ハイエンドスマートフォンには厚さ20マイクロメートル(μm)程度のFMMを使用するが、その重量のためにFMMの中央部がたわむ問題がある。また、気化した有機物分子が基板に蒸着される過程でFMMなどの影響で意図しない場所に蒸着されるシャドー(影)現象も問題となっている。

 

非FMM方式のRGB OLEDはまだ量産性が検証されていないが、将来的に中型OLED分野でニッチ市場を創出できると期待されている。FMMを使用する従来の中小型RGB方式OLEDや、RGBカラーフィルターや量子ドット(QD)色変換層が必要な大型OLED方式ではアプローチが難しい中型ディスプレイ市場を非FMM方式のRGB OLEDが占めることができるからだ。特に多品種少量生産に適したハイエンド中型OLEDが、この技術のターゲット市場になると予想されている。従来の中小型RGB方式OLEDは標準型画面基準で15〜17インチが限界とされている。

 

サムスンディスプレイがオーサゴナルから特許を購入したのは、将来市場が開花した場合に発生する可能性のある特許紛争に備える意図があると見られている。特許業界の関係者は「市場が開花していない分野の特許を購入する目的は、直接使用や防御、または潜在的競合他社への攻撃などに分かれる」と述べた。また別の関係者は「サムスンディスプレイが購入したオーサゴナルの特許は、基幹特許(原特許)と関連する改良特許の可能性があり、現在も継続的に開発中の特許の背景技術である可能性もある」と評価した。

 

オーサゴナルの特許を購入したことで、サムスンディスプレイがこの分野で研究開発(R&D)を継続していることも間接的に証明された。サムスンディスプレイは2022年にJDI(ジャパンディスプレイ)がeLEAPを発表した後、JDIに関連する蒸着装置を供給したAMAT本社を訪問するなど、この技術に関心を示していた。昨年のSID期間中には、非FMM方式のRGB OLED展示品にほとんど欠陥(Defect)が見られなかった日本のSEL(半導体エネルギー研究所 )のブースをサムスンディスプレイの関係者が訪れてミーティングを行い、SID終了後にはSELの関係者がサムスンディスプレイを訪問し、自分たちの技術を再度説明したとされている。

 

非FMM方式のRGB OLED技術自体は約5年前から話題になっていたが、2022年に日本のJDIがeLEAPを公開して以来、業界の関心が高まった。当時、JDIはeLEAP方式のOLED技術が従来のFMM方式より開口率が2倍、最大輝度が2倍、寿命が3倍まで拡大すると主張した。今年4月、JDIは今年12月に6世代の茂原工場でeLEAP方式のRGB OLEDを量産すると発表した。

 

Visionoxはすでに6世代ラインに非FMM方式のRGB OLED技術「ViP」パイロットラインを構築しているが、まだ生産歩留まりは「ゼロ」に近い。Visionoxは8世代OLEDラインをViP方式で構成する案を検討してきた。Visionoxは先月下旬に550億元(約1.2兆円)規模の8世代OLED投資に関する業務協約(MOU)を締結したが、技術方式や具体的な日程は公開していない。Visionoxは8世代OLEDラインをViPで構成する案をまだ放棄していないとされている。